
「憧れだったムーンウォッチを手に入れたのですが、仕事の環境が変わり、よりシンプルな時計が必要になったんです」。そう苦笑いしながらテーブルに置かれたのは、オメガのアイコンであり、宇宙開発の歴史を象徴するスピードマスター プロフェッショナルでした。現行モデルへの買い替えではなく、生活スタイルの変化に伴う整理ということで、お客様がこの時計と過ごした数年間の思い出を伺いながら、一級の計器として、また資産として真摯に向き合わせていただきました。今回お持ち込みいただいたリファレンス「310.30.42.50.01.001」は、スピードマスターの長い歴史の中でも大きな転換点となったマスター クロノメーター認定モデルです。特筆すべきは、伝説的なキャリバー321の設計思想を受け継ぎつつ、超高耐磁性能を誇る「Cal.3861」を搭載している点でしょう。伝統的なプラスチック風防(ヘサライト)を採用したこのモデルは、ヴィンテージ感を愛するコレクターからの支持が極めて厚く、実用性と歴史的ロマンを完璧に融合させた現代の傑作と言えます。鑑定の際、私が最も神経を研ぎ澄ませたのは、ヘサライト風防特有のスレ傷と、手巻き機構の感触です。プラスチック風防はサファイアガラスに比べて傷がつきやすい反面、ポリッシュで新品同様の輝きを取り戻せる特性があります。今回のお品物は、光にかざしてようやく見える程度の微細なスレのみで、非常に丁寧な扱いが手に取るように分かりました。また、リューズを巻き上げる際のクリック感も均一で、内部機構の健康状態は極めて良好。マスター クロノメーターとしての精度も基準値をしっかりと維持していたため、市場での最高ランク評価として査定額を算出しました。スピードマスター、特に手巻きモデルを愛用される方によくお伝えしているのが「リューズ操作の優しさ」です。毎日決まった時間に巻き上げる儀式はこの時計の醍醐味ですが、巻き止まりを過ぎて無理に力を加えると、ゼンマイの破断を招く恐れがあります。また、このモデルは50m防水を備えていますが、基本的には水回りを避けていただくのが賢明です。もしプッシュボタンの隙間に汗や汚れが溜まると、腐食の原因となり、将来的なメンテナンス費用が跳ね上がってしまいます。使用後にセーム革などで軽く拭う。そのひと手間が、数年後の価値に大きな差を生むことになります。提示した金額をご覧になり、お客様は「これなら次の時計への資金としても十分すぎるほどです」と、晴れやかな表情でご快諾くださいました。私たちは単に相場に沿って数字を出すだけでなく、その時計が持つ技術的な価値と、オーナー様が注いだ愛情を正当に評価したいと考えています。難波の賑わいの中で、日々多くの名品と出会いますが、スピードマスターのような「語れる時計」を鑑定できることは専門家として大きな喜びです。もし皆様のコレクションの中に、整理を検討されている一本がございましたら、ぜひ一度その価値を確かめにいらしてください。



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